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罰ゲームはチャイナ服で

「十二」
 ぺち。
「十三」
 ぺち。
「一」
 ぺち。
「二」
 ぺち。
「……三」
「ダウト」
「げ」
 ぺち、と暁(あかつき)夜鳥(ぬえ)が札を出した瞬間に、黒木(くろき)彼方(かなた)が透かさず宣言すると、彼女は顔色を変えた。
「確認するよー。はい、ハートの十だね。ダウトー」
「ぐ、ぬ……」
「じゃあ、これ全部ヌエのね」
 ずいっと、積まれたトランプの札を渡され、暁夜鳥は苦い顔でそれを受け取る。大体トランプ一組の内、半分ぐらいの量だろうか。
「このタイミングでその量か。絶望的だね」
「う、煩い。逆にこれだけあれば十分に戦える」
 ほぼ負け惜しみにしか聞こえないが、彼女は地道に大量の手札を整理している。
「負けたら王様ゲーム方式で、一位になった人の言う事を何でも聞かないといけないから必死ね」
 その隣で簓木(ささらき)が自分の手札で口元を隠す様に微笑っていた。
「まぁ、悪いけど私は全く負ける気がしないわ」
「あー、僕もだな」
「あたしもー」
「…………」
 暁夜鳥だけが手札と睨めっこして何やら呻いていた。
 ぶっちゃけ、彼女はこの手のカードゲームは弱い。阿呆の様に弱い。憐憫の情で勝利を祈ってあげたくなる程だ。ダウトを始めて十五分程しか経ってないが、表情に出る出ないというレベルではなくて、挙動不審になるのでバレバレだ。
 というか、嘘吐けない性格過ぎるだろ。
 自分の手番で五の札を出す時に「八」と宣言し、その後に慌てて「ち、違う! 五、五だ!」と言われれば、普通はギャグがフェイクの類かと思うだろう。だがしかし彼女のキャラクター上、素だ。そんな「さぁ『ダウト』と言ってくれ!」と言わんばかりの珍プレーを噛ます上に、こっちが似た様なフェイクを仕掛けると即答で『ダウト』を宣言してくれる。鴨が葱を背負って自分の身体を掻っ捌いている。見てて不憫だ。
 そんな彼女を見て、すぐさま僕と簓木と黒木彼方は言葉を交わさずに彼女がビリになる事を把握したので、互いに後はどうやって一位になるかを考える様になっていた。因みに僕は簓木が一位になると思っているので、二位辺りに収まれればいい。
「そ、それダウト……」
 僕の出した札に、暁夜鳥が自信無さそうにダウトを宣言するが、
「残念、外れだ」
 安心して手札を減らせるなぁ。
 あとは簓木が順当に一位になった後に、僕と黒木彼方が適当に上がればいいだけ――
「十。あ、これであたし上がりだよー」
「何ぃっ!?」
「だ、ダウト!」
 予想外な事に初めに上がりを宣言したのは黒木彼方だった。それに対して暁夜鳥が食って掛かるが、
「えっへへー、残念でした。スペードの十だから上がりだよ」
 また増える暁夜鳥の手札。もう逆に降参させてあげた方がいいのではないだろうか。
「やっぱりカナちゃんには勝てないわね。出てきた札が全部憶えられてると、手業のイカサマだけじゃ対応し切れないわ」
 さらりと簓木が不正を暴露した訳だが、それよりも札を全部憶えているだと?
「そんな事が出来るのか君は?」
「一応、あたしは記憶力はいい方だよ」
「カナちゃん、円周率何桁まで言えたかしら」
「一万」
「いちっ……?!」
「別にそこまで凄くないよ? ギネスは十万だし」
 何かもう理解出来ない領域の話だな……。
「そんな事より、一位が決まった事だし、ビリの人に対する罰ゲームを決めてもらいましょう」
「あ、そうだったね。んー……何がいいかなぁ」
「……おい、捺夜(なつよ)。何で俺を見るんだ」
 何でも糞も無いと思う。もう一人でスピード出来るくらいの量を手札に持ってるんだから。
「え? いや別にヌエが今一番負ける確率が高いかなーって。あはは」
 一応やんわりとフォローをしてあげるところが優しい。
「まだ俺の負けは決まってない!」
 いやー、どうかなぁ。
「そうねー、まだ勝負は判らないわよねー」
 棒読みもここまで来ると自然だ。
 現時点で、先刻の暁夜鳥のダウト宣言から僕と簓木の残りの手札は、それぞれ四枚と二枚だ。需要と供給を考えると明らかに無理がある。
「じゃあ、取り敢えず皆が終わらせる間にあたしは罰ゲーム考えておくね」
「そうね、それじゃこっちは続けましょうか。私の番ね、十一」
「――ダウト!」
「阿呆か君は」
 彼女の勝ちはもう、どう足掻いても絶望な様が気がする。
「残念だったわね、ちゃんと十一よ」
 また増える彼女の手札。暁夜鳥は苦虫を噛み潰した様に積まれた札をまた手札に加える。因みに、僕達がこのゲーム中で彼女以外にダウトを宣言した事は無い。
「ふ。ふふふ。お前等、俺が勝つのはもう無理だと思ってるだろ?」
 彼女は急に不敵に笑う。負けが込んで可哀想な子になってしまったのだろうか。
「ダウトってゲームは確かに俺に向いてない。だが、逆にこれだけ手札があって相手の手札が少ないなら絶対にお前等が持ってない手札も判る!」
 どうやって勝つんだよそれ。
「一位にはなれないがビリにもならない戦法が俺にはある……!! 勝負に負けても試合には勝てる!」
「…………」
 僕と簓木は顔を見合わせた。
「まぁ、それなら続けようか」


彼方:「あ、罰ゲームはチャイナ服着用ね」(※タイトル)


 今週末。
 僕達は駅前の大型ショッピングモール『オーグ・モール』に来ていた。
「えーっと、『チャイナフェア開催中! 中華料理食べ放題や、普段は着れない本格チャイナ服へのお着替え体験などやっています!!』だって」
「このモールそんな事やってるのか」
「というかこのモール、私達の会社のところの持ち物よ」
「そうなのか?!」
「オルガノンの最初の三文字を捩っての『ORG(オーグ)』だもの」
「本当に何でもやってるんだな、あの会社は……」
 ショッピングモールって。
 自分の所属する組織の節操無さを知って何と無く複雑な気分になる。
「貴方と私が使っているクレジットカードだって、そもそもオルガノンの子会社なのよ? 何も言わずにカードを使わせてくれてるんだから、メリットとして素直に受け取りなさい」
「まぁ、そう言う事なら納得するけど……」
 黒木彼方が言った。
「今回の罰ゲームにここのチャイナフェアはぴったりだよね。実際に本格的なチャイナ服買ったりしたら高いから助かっちゃった」
「ついでに中華料理も楽しめて休日の過ごし方としては一石二鳥ね」
 それで――簓木はここに来てからずっと黙っている暁夜鳥に向き直る。
「先刻からどうしたのかしら? 折角中華料理を食べれるのに、普段ならもっと嬉しそうにするのに」
「…………」
 問われた彼女は呻く様な声を出すだけで表情は暗い。
「え? 何? 聞こえないわ、もっとはっきり言って頂戴」
 無茶苦茶楽しそうですね簓木サン。
「……たい」
「聞こえなーい。全っ然聞こえないわ。言いたい事はしっかり伝えないと駄目よー?」
「……帰りたい」
 彼女のそんな切実な希望に対して、間髪入れずに黒木彼方が言う。
「無理。駄目。許さない」
 彼女には珍しく強めの口調だ。
「約束すっぽかして何処かに逃げようとしてたなんて見損なったよヌエ。あたしは親友として、そんな事しちゃうのは見過ごせないからね!」
 目が怖い。矛盾理由(パラドツクス)の人みたいな目になってるぞ。
 因みに暁夜鳥は待ち合わせ場所に現れずに逃走していたところを、簓木が自前のオルガノンの情報網を使って見つけ出した。職権濫用過ぎる。まぁ、暁夜鳥も能力(ベクター)フル稼働でガチで逃げるのが悪いとは思うんだけど。人込みをスプリンターばりの速度で走るのは兎も角、追い詰められたからってビルの屋上を転々とするとか一般人に見つかったらどうするつもりだったんだ。というかどれだけ嫌なんだチャイナ服。
「まぁ今日は諦めて素直にチャイナ服を着なよ暁夜鳥。それで中華料理の食べ放題でプラスマイナスゼロにすればいいじゃないか」
「この苦しみはお前には解らない!」
「いや解んないけど」
 そんなシリアスに言われても。
「お前には解らない……!」
「二回言われても」
 ちょっと半泣きだぞこいつ。
「さーさー、ここで駄弁っててもしょうがないから早く行くわよー」

「という訳で、早速チャイナ服のお店に来ましたー!」
「おー……何かこう、極端にチャイナ色だなぁ」
 モールの中のチャイナコーナーに行くと、周りの装飾は見事に中華染みていた。見るからに『チャイナー!!』と叫んで主張している様な飾り付けで、訪れる人間を迎え入れる。割と気合の入っているイベントの様だ。
「ちょ、ちょっと待て捺夜!」
 真っ先にチャイナ服の店に来たところで暁夜鳥が言った。
「着替えるのは中華料理食べてからでもいいだろ?! 汚しちゃうかも知れないのに何で先に着替えるんだ!」
 どうやら出来る限りチャイナコスをする時間を減らしたいらしい。まぁ確かにレンタルした服で食事をして汚したりしてしまったら、クリーニング代やら何やら面倒臭いのは確かだろう。
「ところがそうも行かないのよね」
 と、簓木が言う。
「このイベントではチャイナ服に着替えて中の店を巡ると、割引してくれるサービスがあるのよ。高いチャイナ服をレンタルするのに腰が引けるお客さんに対して、敷居を下げる措置ってところね」
「なっ」
 当然ながら予想外な事に暁夜鳥は顔色を変える。
「補足すると男性が着ても割引は適用されるわ」
「なっ!?」
 僕も顔色が変わった。
「安心しなさい槻木君、ここに居る誰一人としてグロテスク趣味は無いから」
「えっ、あぁ、安心したよ……」
 何か釈然としないが良しとしよう。
「待て待て待て! チャイナ服を着て俺にここを回れって言うのか!?」
「愚問」
「愚問ね」
 二人共返事が同時だった。息がぴったり過ぎる。
 そして二人して暁夜鳥の両腕を掴むとそのまま引き摺っていく。
「さぁー行くよヌエー、チャイナ服に着替える時間だよー」
「支払いは私がカードでしておくから気にしないでいいわよー」
「は、離せ! 離せー!!」
 宇宙人的なアレな構図で彼女はそのまま店内の奥へと連れて行かれた。何処か恐ろしい光景だった。名状し難い。

 十数分後。
「……うぅ」
「思ったよりも動きやすいね」
「スリットがあるから足の動かし方は気をつけないといけないわね」
 生足である。
 何は兎も角生足である。
 太腿。
 ぱねぇ。
 眩しい……。
 眩し過ぎる……!!
「くっ……!」
 チラつく白い肌についつい目が行ってしまう。男子として健全な反応だが度を越すと自分が変態になった様な気分で精神衛生上宜しくない。
 暁夜鳥と黒木彼方は髪型をシニヨンに纏めている。黒木彼方は別段恥ずかしがっている様子も無く自然体で楽しんでいるので、割と身体のラインがはっきりしているのがまた困ったものです。
 一方の暁夜鳥は赤面しっ放しで頻りにスリットをどうにか隠そうとしているのだが、片方を隠すともう片方が疎かになって寧ろ見える。見えるのだ、はっきりと。
 そして簓木は髪は弄らずに黒いチャイナ服にちゃっかり黒い羽扇子という、自分の長い黒髪に合わせたコーディネイト。これまた似合い過ぎて笑ってしまう程だ。
 三人とも総じてエロス。
 善哉、今ならフロイトの言葉の全てを鵜呑みに出来る。
 はしゃぎ過ぎて自分のキャラクターを崩壊させない様に僕は努める。割とマジで。
「と、というか、結局三人共着たのか」
「まぁね、折角の機会だし、楽しまなくちゃ」
 簓木は口元を羽扇子で隠しながら、ふふっ、と艶やかに微笑う。
 やべー。
 何かイケナイ事してる様な錯角が。婀娜っぽ過ぎるでしょう簓木サン。
「ね、ね、涼君どう? 似合ってるかな?」
「えぇとても」
 上目遣い止めてくれ黒木彼方。それは不味い。思わず丁寧に返答してしまった。
「こ、これ歩いたら足が見え過ぎないか……?」
 未だにスリットと格闘している暁夜鳥が言う。彼女は気付いていない様だが、格闘のし過ぎで周りの目を集めまくっていた。
「それはそういう服だからそれでいいのよ」
「だ、だけどこれは幾ら何でも見え過ぎ……」
「元々罰ゲームだし恥ずかしいくらいが丁度いいんじゃないかな?」
「そ、そんな無責任な……!」
 暁夜鳥は顔を真っ赤にして恥ずかしさのせいか少し涙ぐんでいる。
 普段見せない恥じらいは中々いいものだ。素直に可愛い。単純に嗜虐心が満たされる様な、背徳感にも似た妙な感情が満たされる。萌え。
 因みに僕はここまで無表情で済ませている。
 別にムッツリとかじゃない。女性陣に軽蔑されない為の僕なりの処世術という奴だ。紳士的振る舞いと言ってもいいだろう。お互いに嫌な気分にならずに楽しむ為に、こういう方便も男女の間には必要だ。だから僕は何も疚しくない。
「ほらほら、いつまでも恥ずかしがってないで中華食べに行くわよヌエ」
「ちょ、おっ、押すな! 足が、足が見える!!」

 その後、一応罰ゲームという名目を果たす為に、暁夜鳥を衆目に曝してから中華料理を食べに行くという事になり、コーナーを一通り練り歩いた。
 彼女は終始恥ずかしさでもじもじしながら落ち着かない様子で周りの目を気にしていた。そしてこけた。それはもう見事にこけた。直ぐに起き上がって額と顔を赤くさせながら「誰にも言うなよ……」と睨まれたが全く怖くない。
 簓木に至っては素早くこけた瞬間をしっかりとケータイのカメラで撮っていた。これでまた校内に彼女の写真が出回るんだろうなぁ……。
 その一騒動の後は暁夜鳥は極度の恥が転じて不機嫌になってしまい、むっつりとしていたが、いざ中華料理屋に着いて食事を始めると、あっという間に機嫌は直った。
 ちょろい。
 とは言ったものの、やはり暁夜鳥の食べる量は尋常ではなくて安くは済まず(一応僕達全員で食べたがメニュー全部頼んだ)、その場は立て替えるという形で簓木がカードで一括して支払う事になった。
 しかし立て替えとは言えカードで気前良く支払うなぁ……。
 ともあれ、メインイベントであるチャイナ服関連以外は特にこれと言った事も無く、すっきりと終わったので割愛。
 ただ、何かが引っ掛かっている様な気がしてならないんだけど……それが何なのか判らない。あと少しで出てきそうな違和感の答えが妙に気持ち悪い。
 …………。
 まぁ、そう大した事では無いんだろう。

 そんな事無かった。
「何が大した事無いだよ!!」
 思わず僕は手に握っていた紙を殆どノリ突っ込みの要領で床に叩き付けた。
「何か怪訝しいと思ったらそういう事か! 簓木の奴気前が良過ぎると思ったんだ……!!」
 糞っ、今回は暁夜鳥に対する嫌がらせに集中していると思って油断していた。まさかきっかり僕に対しても仕込みを済ませていたなんて夢にも思わなかった。何が「今日は楽しませて貰ったから私が全部払っておくわ」だ……
「あのクレジットカード、僕のじゃないか!!」
 床に叩き付けたカード明細を今一度見て、どれだけ考えても請求金額に心当たりが無い事を確認すると僕は簓木に電話を掛けた。
「おい簓木、どういう事だ」
〝あ、明細届いたのね〟
「っていう事は、やっぱり確信犯か……!」
〝嫌だわー、人聞きの悪い。そもそも女子三人でやればいい様なイベントに私が貴方の参加を何も無しに黙認する訳無いじゃない〟
「そんな理由があるか!」
〝別にいいじゃない。何だかんだで楽しんだでしょう? キャバクラにでも行ったと思って諦めなさい〟
「ふ、巫山戯るなー!!」
〝別にいいのよ、文句たらたら流し続けても? その間ですら私は貴方のカードで買い物をし続けてカード破産に追い遣る事も出来るし〟
「そうだ! 君は先ずどうやって僕のカードを使ってるんだ?!」
〝言ったじゃない、クレジットカード会社もオルガノンの持ち物だって。そして私はそのオルガノン所属の監査官。あとは解るわよね?〟
「ちょ、っと待て……それはつまり、君は僕の経済状況も自由に出来るって事か!?」
〝大正解。私に歯向かったら貴方をあっさりと社会的に殺す事も出来るんだゾ!〟
「可愛い子振って恐ろしい事言うなよ?!」
〝今回は十分楽しませて貰ったわー、有り難うね槻木君。それじゃあまた今度ね〟
「待て、まだ話は」
 ぶつん、と一方的に電話は切られた。
「……結局またこういうパターンか!!」

おわり

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