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7.扉

7.扉


 今日は、活発系妹属性美少女の真麻唯維です。
 突然ですが、最近わたしには悩みがあります。それは、兄の様子が変わったという事です。
 今まではわたしと兄の仲は、普通の思春期の兄妹らしく「妹うぜぇ」・「兄うぜぇ」と言いつつも割と家では普通に会話をする険悪な様で、家族的繋がりにより良好な関係が保持されているな間柄だったのですが、どうにも近頃の兄は怪訝しいのです。
 何やらやたらと疲れて高校から帰ってきたり、かと思えばそれなりに高校生活を楽しんでいる――というよりも、寧ろ何か充実している要素を得た様な振る舞いを見せるのです。
 今までは土日の休みには、自宅に友人のイオさんと遊んだり、イオさんと出掛けたりと男友達との付き合いが多かった筈なのですが、その回数が極端に減っています。イオさんが家に遊びに来ないとわたしも寂しい限りです。
 そこで、気になったわたしは調査を決行する事にしました。
 方法は極めて常識的な思考で辿り付くものをチョイスしています。
「お母さーん、兄上のケータイ知らなーい?」
「はぁ? 何で貴方が安孝のケータイ探してるの」
「わたしのケータイ鳴らそうと思って。お母さん、ケータイ持たない主義だし」
「お母さんはケータイが何処にあるかなんて知らないわよ。部屋にでも置いてあるんじゃない?」
「判ったー」
「ちゃんと安孝に借りるって言いなさいよ」
「はーい」
 ちょろい。
 母はケータイに対して無頓着なのでプライバシーやそう言った面の問題はスルーすると思った。
 と、言う訳で兄の部屋に来ました。勿論、兄が母のお遣いでケータイを持たずに出掛ける可能性が高い事は事前調査済み。
 さぁ、思春期の男子高校生の部屋へレッツゴー。
 妹が兄の部屋に忍び込むって、何だか背徳的。いいシチュだ。
 ケータイは労せずして見つかりました。机の上に放置。早速メール履歴を確認。あぁ、何かイケナイ事しているせいか、つい息が荒く。いつ兄が帰ってくるか判らない緊張感でケータイを操作する手が震えます。
 メールの受信ボックスの中身はイオさんが多目。途中から顔文字だけで会話してやがるこいつら。萌えるじゃねぇか。
 何件か会話を漁っていると、殆どが知っている人、もしくは近所の幼馴染か小学校からの付き合いがあるわたしも顔見知りの面々。一体何が兄を変えたのでしょうか……?
 と、そこで一つの名前が目に留まりました。
『佐渡真子』
 誰だこいつ。知らない女だ。
 受信履歴を見てみると、件数こそ少ないですが、最近からメールの遣り取りをし始めたのが判ります。そして送られてきたメールを一件、妙な確信めいたものと一緒に恐る恐る開いてみると、

------------------------------------
|Re:
|真麻くん、ひよりの事は適当に無視しなさい。
|あの子が何を言おうが、当然貴方は私の恋
|人で下僕なのよ。
|私の貴方への愛は揺るがないし、貴方の私
|への愛も揺らぎようがないんだから。
------------------------------------

 ……愛、だと……?
 これは、間違い無く……『恋人』という奴でしょうか。
 兄が。
 知らない間に。
 恋人を作っていた。
 突然、寒気と共に先刻までの緊張とは違う震えが身体を襲いました。
 そんな、まさか、兄が毎日疲れながらも楽しそうに高校から帰ってくるのは、恋人が出来たから……?
 いえ、寧ろそれが得心の行く答えでしょう。全て辻褄が合います。イオさんと遊ぶ回数が減ったのも、それで納得が出来ます。この恋人の『佐渡真子』とやらに逢っているからに違いありません。
 許せない。
 兄が女と付き合うなんて。
 そんなの、わたしが楽しくない。嫌だ。
 嫌だ嫌だ嫌だ!!
 兄が付き合うべきなのは、こんな女じゃなくて――
 がちゃり。
 その時、扉の開く音がしました。
「あれ、唯維?」
 振り向くと、兄が怪訝そうにわたしを見ていた。

8.他人事

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紫陽花の色は定まらない

 ■紫陽花の色は定まらない
 自分とは何だろうか。
 他者とは何だろうか。
 曖昧に過ぎる定義の上で、世界は何を決めてくれるのだろう?
 努力も。才能も。個性も。大衆も。特徴も常識も宗教も哲学も信念も何もかも。
 所詮は揺らぐ土壌に咲き誇る紫陽花の花弁の一片にすら劣る下らなさ――

Lightbox版
 #1/   :了
HTML版
 #1/   :了

 ※イベント参加用の原稿なので、#1だけをサンプル公開しています。

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とても面白かった 面白かった 普通 つまらなかった とてもつまらなかった Name:
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Memory Isotope 8/記憶同位体の有効活用:Side-Gnosis

8/記憶同位体の有効活用:Side-Gnosis
〝どんなもんでした、ツッチーの件は?〟
「あぁ、中々面白かったよ、横戸君」
 電話先の相手に向かって、鼎は答えた。
〝あぁーん? 面白かった? うわ、やっぱ変人だわアンタ。殺人鬼の事で面白いとかキモイです〟
「いやいや、今回は特殊だよ。絡んできた人間が、一人居てね」
 ふーん、と電話の相手――横戸縦は適当に答える。
〝まぁ、どうでもいいっスけど。オレは面倒に巻き込まれなければいいんで〟
 ところで、と横戸は話を変える。
〝己はどうなったんですか? アイツ大怪我したみたいですけど〟
「片腕を切断したみたいだよ。……そうだね、きっと彼の事だ、多分怪我が治ったら別の街で殺人鬼になるんじゃないかな」
〝何をさらっと言っとるんですかアンタ〟
 あっはっはっはっ、と笑いながら鼎は言う。
「別にいいじゃないか、私は彼を否定するつもりは無いし。何をするのも彼の自由だ」
 と、そこでドアノッカーが客の訪問を告げた。
「あぁ、お客さんだ。これで失礼するよ、横戸君」
〝へーい、そんじゃまた今度、機会があればー〟
「そうだね。それと今回は有り難う、楽しめたよ。それにお陰で面白い人材を雇えそうだ」
 へぇ、と興味があるのか無いのか、よく解らない声を出して横戸は電話を切った。
 さて、と鼎は玄関の方を見る。
「――どうぞ」
 その声に合わせて、がちゃり、と玄関のドアの開く音がした。そして彼女は入ってきた男を迎える。
「いらっしゃい、有栖君」
「……どうも、カナエさん」
 微妙に決まり悪そうな顔をした有栖に、鼎は微笑みを向ける。
「今日はどうしたのかな?」
「えぇー……いや、別に用は無かったんですけど……その、何と言うかですね……」
 有栖は口籠もりながら、遠慮がちに言う。
「えっと、俺働き口を探しててですね……ここ、万屋みたいな事してるって柘榴ちゃんから聞いて……それでそのー……俺の事、雇ってくれません?」
 それに、鼎は笑顔で答えた。
「勿論だとも」
Memory Isotope……End

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Memory Isotope 7/同位人格:Side-Lethe & Murderer

7/同位人格:Side-Lethe & Murderer
 衝動に従って、と言われたが、これで合っているのだろうか。
 俺は人を殺す為に家から包丁を持ち出して、人気の無い路地を夜に徘徊していた。繁華街の喧噪から抜け出す為に用意された様な細道に逸れた奴を付けて、俺は気付かれない様に息を潜める。
 ばれない様に、感付かれない様に。今、目の前を歩いている人間を、ゆっくりと、どうやって殺すかを楽しみにしながら。
 うっかりしていると我に返って、吐き気を催しそうになる。だが、それ以上に掻き立てられる妄想に、身を浸らせるのが愉しくて堪らない。
 ――あぁ、どうやって打ち殺そうか。
 何処に刃を突き立ててやろうか――。
 何て充足感だ。まだ殺してすらいないのに、初めて自分の手で人を殺せる事を考えると、これ以上の快感を得られるって事だ。
 今すぐにでも襲い掛かっちまいたい。
 だが我慢が必要だ。
 確実に、絶対に仕留める為に。
 返り血を浴びられる事に心躍らせていると、そこで、殺そうとしている誰かの前から、人影が来るのに気付いた。
 邪魔な――と小さく舌打ちすると、向こう側の奴も同じ様に舌打ちをした。
「――――」
 ……あれ?
 怪訝しい。何だ、これはどういう事だ。
 あっち側から歩いてくる奴。あいつは、あいつは俺と同じ様に、殺そうとしている。
 何でだ。何でそんな事が解る。俺には、何でアイツの事が解るんだ。確信を持って、あいつが同類だと見極められる。向こうの人殺しも同じなのか、戸惑った様にその場に立ち止まった。
 思わず俺も立ち止まる。
 そして、互いに狙っていた標的がその場から居なくなるまで、そうしていた。
 大分歩いた路地裏の小路には、俺とアイツしかいない。静かで、少し冷える。街灯が所々の暗闇に穴を開けていた。
 俺が一歩を踏み出すと、向こうも踏み出した。
 二歩、三歩、四歩――街灯で互いの顔が見える場所にまで俺達は歩いていく。
 そして、互いに人殺しの顔を見た。
「……お前は誰だ」
「それは、こっちの台詞だ」
 暫く、沈黙。無駄な問いだ。解っている、こいつも人殺しだ。それだけで、充分だ。
「……俺は、己、(つちのと)己由(ゆう)だ」
 向こうの殺人鬼が名乗る。
 だから、俺も名乗りを返した。
「霧澤(きりさわ)有栖。俺は多分……」
 ――多分? いや、これは確実な事だ。
「今の俺はお前だ」
 あぁ、と奴は言う。
「――だったら、だったら俺は」
「お前を殺さねぇとならねぇな」
 互いに、凶器を取り出す。思った通り、得物は同じ物で、包丁だった。
 同じ人間が居る。しかも、俺達は人殺しだ。全く同じ殺人鬼だ。
 だからどうしても相手が邪魔になる。
「…………」
 タイミングは要らなかった。
 ほぼ同時に俺達は互いの首を狙って、刃を振るった。
 俺はそれに合わせて軌道上に空いている腕を出してそれを防ぐ。奴も同じ遣り方で防いでいた。
 互いに同じ体勢の膠着状態で固まり、次の手を考える。
 ――いや。
 違う。俺は考える必要は無い。
「――――っ!」
 俺は渾身の力を込めて、相手を蹴り飛ばす。その衝撃で奴は倒れ、俺はその隙に――右目の眼帯を外した。
「ふぅ――――」
 広くなった視界に、殺人鬼――己を収める。
 そして視る。奴を、奴の澪の流れを俺は識る。
 立ち上がった己は、俺を睨んでこっちに向かってきた。だが無駄だ。もう解っている。奴が、何を考えて俺をどう殺そうとしているのか、あいつの流れはもう識っている。
 まっすぐに腹を狙って包丁を突き出すが、解っている攻撃なんだ、怖い訳が無ぇ。
 直線の殺意を躱し、俺は反撃を返す。包丁を持っている奴の腕を切り付けると、その勢いで傷から出た返り血が道に散った。
「っぁ……!」
 痛みで怯んだ一瞬を逃さずに、俺は己の顔面を蹴り飛ばす。そして倒れ掛けた奴の肩に包丁を突き刺し、完全に倒してその柄を踏み付ける。ぐじゅ、と肉の抉れる音がして包丁が骨に当たった。
 やべぇ。
 愉しい。
 こっちが一方的に暴力を振るうのが面白くて堪らない。
「――っく」
 がんがんと、ただひたすら奴の肩を潰そうと足を下ろす。その度に痛みに歪む己の顔が、最高に気持ちいい。
 笑みが零れる。
 気が付くと大声で笑いながら俺は奴を踏み付けていた。己は何かを譫言の様な事を言っているが、耳に入らない。
 煩ぇ、話し掛けんな。今俺は手前を殺している最中なんだよ。まだまだ片腕を潰し終わってからじゃねぇと、止めを刺す気になれねぇ。俺を殺そうとした腕を使い物にならねぇぐらいに打っ潰しておかないと、満足出来ねぇ。
 奴の腕が血だらけになって、やっと俺は満足した。これ以上やってると、流石に血が無くなって勝手に死なれちまう。それは興醒めだ。
 さぁ、仕上げにするか。
 己の肩に刺した包丁を引き抜こうとしたが、踏み付け過ぎたせいでボロボロになっていた。仕方が無いので、代わりに己が持ってきた包丁を使う事にした。
 自分の凶器で殺されるなんてのも無様で中々いい。
 もう殆ど気を失い掛けている己の顔を眺め、俺はその横にしゃがみ込む。
「――じゃあな、殺人鬼。お前の代わりは俺がやってやるよ」
 俺の言葉に僅かに反応を見せた己は、笑いながら言った。
「いいね……、代わりが居るなんて……殺し冥利に尽きる」
「――はっ。はっは、違いないな」
 どっちが殺される事になってても、結果は同じだったろうから。
 じゃあな、と俺は胸に向けて包丁を振り下ろし、
『そこまでだ、この馬鹿』
 その声に、俺の腕は止められた。
『カナエに言われたから見に来てみれば、カナエの言う通りじゃないか。全く、危ないところだよ』
「……柘榴ちゃん」
『そこまでにして帰るぞ。これでもう、お前はそこの殺人馬鹿に悩まされない筈だよ。何ってたって、端からお前がそいつになれる訳が無いんだから』
「え?」
 いや、だって俺はこいつの、己の犯行の跡を視たから――
『ばーか。言われただろ、お前はその右目を扱えないから侵されてただけなんだって。大体、記憶で他人を模倣しようとしている偽物が、何で本物を壊すんだ。そんな事したら、もう模倣は出来なくなるだろ』
 それじゃあ、俺がここでやろうとしていた事は――意味が無い?
『今回の事はね、カナエはお前に自覚を与えようとしただけだよ。初めて人殺しの記憶を覗いたから、処理し切れてないだけだろうってね。これでもう、自分を見失う事も無いさ』
 くわーっ、と面倒臭そうに柘榴ちゃんは欠伸をした。
『まぁ、悪趣味な方法だけどね』
 呆然としながら、俺は包丁を取り落とした。


8/記憶同位体の有効活用:Side-Gnosis

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Memory Isotope 6/澪の流れ:Side-L

6/澪の流れ:Side-L
 今日は君の眼について話そうか、とカナエさんは言った。
「ちょっ、待って下さいよ。俺は――」
 いやいや、とカナエさんは俺の言葉を遮る。
「人の話は聞きなよ。君の眼は関わってくるんだから」
「…………」
 実は俺の話を何も聞いてなかったんじゃないだろうか、この人。
『……アリス、カナエの話を聞く時のポイントは、何も考えずに頭を使う事』
 カナエさんの膝の上で撫でてもらっていた柘榴ちゃんが、如何にも我関せずと適当な事を言う。
 考えないで頭使うって、無茶苦茶じゃねぇか。
「まぁ、その〝忘却の澪(レテ)〟の右目がそもそもの原因なんだ。それについて知ってもらわないと先ず話が進まない」
「そうですけど……これと長年付き合ってきた俺にも解らないのに、解るんですか?」
「私は〝天啓の万象(グノーシス)〟を持っているんだよ。この能力はね、万象の認識と知識をあたしに教えるんだ」
 えー、えー、早速意味が解りません。何を仰っているのでしょう、助けて柘榴ちゃん。縋る様にアイコンタクトを試みると、目を逸らされた。酷ぇ。
「それって……、何でも知っているって事ですか」
 俺なりに苦し紛れに考えないで頭を使うと、口から質問が出た。
「違うよ、あたしは『全知』にはなれない。個の存在だからね。全は一、一は全だが、全を知る一は居ないんだ」
「いや、意味が解りません」
「知ってるよ」
「…………」
「そんな顔しない。ちゃんと説明してあげるから。君が自分以外の異能者に会ったのが初めてなのは解ってるよ」
 俺、ただ無礼られてるだけじゃねぇのか。
 カナエさんは話を続ける。
「先ずね、私は世界から教えてもらっているんだ。世界には――アカシックレコードとでも言うのかな? 兎に角、時間軸から外れた全ての保存庫がある。判るかな?」
 ……うん、オカルトは判らん。
「そっか、判らないか。まぁいいよ。それで理論上、〝天啓の万象(グノーシス)〟は全てを知る事が出来るのだけど、私は全てを知る事は出来ない」
「何でですか」
「急かすね君は。理解の説明は難しいんだぞ。――で、私が知る事が出来ないのは未来の事だよ。〝天啓の万象(グノーシス)〟は保存庫の中身を提供するけど、私は時間軸から外れていないのだから、どう足掻いたって時間軸から外れた事は枠の外だ。更に、私自身は一だ。全じゃない。よく錬金術であるだろう、今は漫画とかで使われているから少し有名になっているけれども、万物流転の『全は一、一は全』という奴があるだろう?」
「俺は知りませんよ、そんな事」
「おや、そうかい? ……あ、本当に知らないみたいだね。相手をするのが面倒なのかと思ったよ」
 いや、実際訳解んないから面倒だって。
「まぁ、全という世界は文字通り全てだから、アカシックレコードは全ての保存庫になりうる。だけど、私は一だ。関われるものは限られる。関わっていないものの事を知る事の出来る人間は居ないからね――居たとしたらそれはまた別の能力かな、因果の強制決定だったり、要素の演繹と帰納で導いたり――まぁ兎に角。だから私は接触している対象の事なら知る事が出来るんだよ」
「……確かに、知れはする様ですね」
 今までの事でそれは経験済みだ。
 こっちが言ってない事を勝手に理解して話をするもんだから、傍目にはカナエさんは黙りこくってる俺に嫌がらせをしてるみたいに見える。
『それはお前の頭が悪いだけだろ』
「うぇいっ?! なんで柘榴ちゃんに俺の考えてる事が解るんだ!?」
『いや、表情』
 ……そんなに判り易いか。
「まぁ、有栖君の事は置いといたとしても、私は現在進行の今ならば知る事は出来るよ。今も、君の心を知ろうとすれば幾らでも知れる、まぁそんな悪趣味で心身辛い事はしないけどね」
「ん? それじゃあ時間軸の事を言うなら、同じ様に今、関わり続けている状態のものの事しか知れないって事ですか?」
「はずれー。あたしが時間軸の問題で知る事が出来ないのは未来の事だけだよ。過去には端的に、そして乱暴に言うと絶対関わっているからね」
「どうい――」
「どういう事かと言うとだね、世界の要素は全て相互に収束と発散を繰り返す様になっている。これは循環だね、世界が流れる事、俗に言うパンタ・レイだ」
「それ――」
「それが即ち、世界は互いに関わりあっているという事で、これはとても重要な事だ。関わった時点でその要素は互いに、極限的に未来に近い現在を共有する事になる。それはつまり、それの世界で最新の結果だ。結果は過程を経ないと得られない――過程無く生まれるものは存在せず、全ての存在はそこに在る事で過程を保有し続ける。つまり、知らないし解らないだけで、私達は相当数の、それこそ眩暈を起こしそうな事象に囲まれて、またそれを得ているんだよ」
「だ――」
「だから、私は過去の事ならば確実に知る事が出来る。個々が関わった事の紐解けない過程を、私なら知る事が出来る。まぁただし、事実としてだから人類の歴史的な認識とあたしの認識に差異が出る事もあるんだけどね。簡単に言えば、未来を知る事が出来ない『ラプラスの魔』かな」
「――――」
 わざとか、この人。
「勿論、わざとだよ」
「…………」
「そんなに睨まなくてもいいじゃないか。ちゃんと君の事に繋がる話なんだし」
「……何に繋がるんですか」
「君の右目だよ。それ、大変だろう? 殺人衝動を抑えるのに大分苦労したみたいじゃないか」
「――そんな事まで、解るんですか」
 それって、まだ俺がカナエさんのところに行き着く前の事じゃねぇか。しかも話に出してすらいない事だ。
 視覚を閉じてるから、完璧じゃないけどね――と何処か寂しそうにカナエさんは微笑った。
「さて、先刻の世界の繋がりから言うと、君の場合は、水脈の様に繋がった忘却の過程が問題なんだよね。暴走してるし」
「暴走? 眼帯で抑えられてますけど」
 だから、俺は眼帯を忘れた時に、殺しに魅入られちまったんだ。
 ぞくぞくと、肚の底から。
「違うよ、そうじゃない。それは貰い物だろう。君は〝忘却の澪(レテ)〟の本来の持ち主じゃない。まぁ持ち主は死んでいるから仕方が無いのだけれど」
「確かに……、この眼は兄貴からの貰いもんです。俺が眼帯と付き合い始めたのもそれが原因だって思いますよ。けど暴走なんかしていませんって」
「違う、本来の持ち主の手を離れた時点で、その眼は暴走しているんだ。君には絶対に制御出来ないから、そうやって眼帯で抑えるしかない。だからこそ、殺人衝動なんかに悩まされているんだろう? 制御出来ているならそんな事には悩まされない」
「…………」
 なら、俺はこの右目と一生付き合っていかなくちゃならねぇのか。
 そして、このどす黒い感情とも。
 一度染まった汚れが完全に落ちねぇ様に、俺は脳味噌にこびり付いた人を殺す事への欲求を溜めていくのか。出来る事なら、頭ん中を開いて余分な部分をがりがりと削っちまいたい。そうすりゃ、何も考えずに一方向に死んで逝けるだろうに。
 馬鹿だな――気が付くと、いつの間にか俺の目の前にちょこんと座っていた柘榴ちゃんが言った。
『何をそんな暗い顔をしてるんだ。カナエはお前に解決策が無いなんて言ってないだろう』
「そうだね。確かに今回の殺人の件は君の不注意だ。けど、遣り方は幾らでもある」
「……はい?」
「君の眼は、飽くまで『過去に触れる』だけだ。〝忘却の澪(レテ)〟の意味を君は知ってるかな?」
「いや、知りませんよ。生まれて初めて聞いた言葉なんですから」
 そんなの知ってたら自分で調べるぐらいするっての。いや、調べても判らなさそうだが。
「その『レテ』という名前はね、冥府を流れる忘却の川の名前だ。その水を飲めば、過去を忘れられると言われてる」
「忘れる? だって、俺の眼は」
 過去を視る。それが何で記憶を吹っ飛ばす様な川の名前が付いてるんだ。
 それだよ、とカナエさんは言う。
「記憶というものが要点だ。〝忘却の澪(レテ)〟は、『記憶』の記銘・保持・再生・再認という仕組みの中で、本来個人の裡でのみ存在するそれに触れる事が出来る。その名が示す水――レテは、個人に這入り込んだ時、脳を破壊する事無く経験情報を奪い去る、その雫の中に記憶を吸い込むんだ。そして何れ必ず忘れ去られる――つまり消滅する――全ての『記憶』は支流として本流に当たる、〝忘却の澪〟に『記録』として戻る事になる。だから、この澪の流れを識る者は、過去に触れる事が出来るんだ」
「よく、解んねぇんですけど――」
 先刻の保存庫の事だろうか。
 それは個人の記憶が、個人が持ってたもんが流出して最終的に行き着く場所なのか。だが、『記憶』が『記録』になるってのはどういう意味だ。
「厳密には君の考え方とは違うね」
「じゃあ、どういう」
「記憶というものを定義した時、憶えを記すという風に、記憶は記憶者により記されるものである限り主観でしかなくて、完全に私情が介入して構成されてるんだ」
 だから、とカナエさんは一拍置いた。
「君と私の能力は似て非なるものだ。君は記憶を視て、それを扱えないから侵される。私は記録を得て、それを扱えるから全てを知る事が出来る」
 ここまでくればあとは瞭然――カナエさんは微笑んだ。
「大本を絶てばいいんだ。君に流れ込む原因になったモノを、君が凌駕する事が出来ればいい」
「それは、どうすれば――」
 いいんですか、と訊くと、カナエさんはとても面白そうに、にやりと笑った。
「殺人衝動に従えばいいのさ」


7/同位人格:Side-Lethe & Murderer

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