■Calendar

02 2017/03 04
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

■Comment

Name:
無料掲示板

■Twitter

■Search

【ヒュレーの海】24話まで更新

『ヒュレーの海』を22話から24話まで更新しました。
何と、一挙に三話の更新です。小説家になろうには疾うの昔に上げてました。

まー、あれですよねー、『小説家になろう』に上げてるんだから、別にこっちにも上げる必要無くねー? とか思ったりはしますけどー、でもねー、体裁を整えたバージョンという意味ではこっち側にも上げておきたいですからねー。

元々が縦書きの文章を『小説家になろう』では横書きにしてしまっている訳ですし、HTML表示でのルビや傍点の見栄えも考えると、やっぱり、きちんと縦書き体裁でのものは載せたくなるのが人情。誰かの。


『ヒュレーの海』を書き終わったら、加筆修正して本にすると思います。大昔に当該作品が短編だとほざいていた奴が居ましたが、彼は死にました。仕方がなかったのです。普通に十万文字超えてました。怪訝しいです。全然当初の指針とは違って、纏まっていません。シーン区切りのプロットを書かねぇからこういう事になるんだよ、というのは身に染みて解りました。
普通に書く時でもプロットはそんなにしっかり書きませんが、シーン単位での纏めレベルでしか書きませんが、今回は更に話の流れだけで書いているから酷い事になるんですね。

ところで、小話一つ書きました。ツイッターであれこれ言っていたネタで、槻木君と簓木さんの話。
恐らく、同人誌を買って頂いた人にしか判らないであろう登場人物二人の小話っていう。まぁ、何を今更感が漂う訳ですが。

下からどうぞ。





 猛る暑さ、とはよく言ったもので、中天に掛かる太陽が激しく昂っている日だった。
 夏休みに入り、高校生の時分とは違い怠惰に過ごす事が完璧に許されている日々の中で、僕は午前中に所用を済ませて自宅マンションのドアの前に帰ってきた。ここ数日は特に暑い日が続いていて、何故こんな日に予定を入れてしまったものかと後悔しつつ、ショルダーバッグから家の鍵を取り出す。悔いる中で、家の中は事前にタイマーセットしておいたクーラーが効いている至福の場である事を思いながら、鍵をシリンダー錠に差し込んだ。鍵を捻りながら、確かカルピス原液があと一杯と少し分残っていた事を考える。この暑さだ、贅沢をして濃い目のカルピスを一気に飲む暴挙ぐらいの解放感があってもいいだろう。
「ただいま」
 と、誰も居ない部屋に帰宅を告げる。ひやり、と冷たい尖った空気が鼻を刺す。誰もがそうする様に冷気を全身で感じて、ふう、と僕は一息を吐いた。
 故郷でもあるこの街で独り暮らしを始めてもう五年が経つ。高校入学時に無理矢理引っ越しさせられた訳だけど、慣れてしまったものだ。当初はここまで根を張って居付くとは思ってもいなかったのに、気が付けば僕は十分に根付いている。うっかり大学進学までしたりしている始末だ。
 僕は肩に掛けていたショルダーバッグを肩から降ろし手に持って、カルピスを作る為にキッチンカウンターのあるリビングに向かう。
 リビングには先客が居た。
 いや、この場合、先客という表現は怪訝しいだろう。そもそもここは僕の家で、戸締りをきちんとして外出したのだから、不法侵入者というべきだ。それが仮令、知り合いである簓木鏡花であったとしても、不法侵入である事実に変わりは無い。
 簓木は、クーラーの効いた僕の家のリビングでソファベッドに寝転がっている。浅葱色のノースリーブブラウスに、白いハーフパンツという恰好で、タオルケットを被ってすやすやと寝息を立てていた。テーブルの上にはたっぷりと汗を掻いたコップが置かれており、その隣にはカルピス原液の紙パックが置かれていた。
 って、おい。
 返せよ、楽しみにしてた濃い目のカルピス。
 一応、念の為に紙パックを手に取って軽く振ってみたが空だった。空だった……。
 少しの間、紙パックを持ったまま黙祷の様に目を瞑って立ち尽くす。汗が一粒、頬を伝って落ちた。
 気を取り直して、簓木の方に向き直る。彼女にしては珍しく、僕が帰ってきたというのにまだ寝たままだった――いや、待てよ。寝た振りをしているのかも知れない。このまま僕が何がしかの行動を取ったタイミングで不意を衝く為に、無害な睡眠を続けていると思わせる算段かも知れない。例によって仕込みは既に済ませているのだろう。
 僕は最大限の警戒心のアンテナを張りながら、じりじりと簓木から距離を取る。五十センチ離れた。まだ寝ている。一メートル離れた。寝息を立てている。二メートル。彼女は寝返りを打った。五メートルまで離れた。ううん、と何か寝言の様な事を口にした。
 僕は結論を出す。
 これガチ寝だ。
 彼女から目を離さずに、どうするべきかを五分程熟慮して――ありとあらゆる可能性を考慮してだ――取り敢えず僕は彼女を起こす事にした。
「おい、簓木、起きろよ」
 僕は彼女の肩を揺する。少し肌がしっとりとしていた。部屋の中は涼しかったが、寝汗を掻いていたらしい。彼女は睡眠を邪魔された事に対して、生理的に不快そうな表情を浮かべる。無意識の反応だとは解っているが、人の家で勝手に寝ていて図々しい反応だ。
「あぁ」
 と、彼女は目を開いた。
「お帰りなさい、槻木君。クーラーはよくないわね、快適だから思わず寝ちゃったわ」
「どうも、ただいま。で、先ず人の家で何で勝手にカルピスを飲みながら少し早い昼寝をしていた説明はしてもらえるんだろうね」
 そうね、と簓木は目を擦ると伸びをする。
「カルピスは喉が渇いていたところに、ちょうど一杯と少し分が残っていたから濃い目に作って飲ませてもらっていたわ」
 それはもしかして、僕への嫌がらせの為にわざとやった事なのだろうか。そんな事を邪推する。他にも冷蔵庫の中にはアイスコーヒーやアイスティー、麦茶も入れてあったというのに。よりによって、何で今日の暑い中を出掛けてきた僕が欲しているものをピンポイントで狙うのか――狙えるのか。
 憮然とした僕の表情を読み取ったのか、簓木は言った。
「あら、槻木君も飲みたかったのかしら、カルピス。飲み掛けだけど、飲む?」
 そう言って、彼女はいつもの揶う様な微笑を浮かべながら、僕に半分程残ったカルピスのコップを渡してきた。
「……いや、いいよ」
 喉の渇きとしては飲みたい事は飲みたいけど、遠慮しておく。
 僕が断ると、簓木は妙に不満そうな顔をして「あ、そう」とコップを持ってソファから立ち上がった。そのままキッチンカウンターの中に入ると、コップの中身を全てシンクに捨てた。
「何してるのさ」
「別に。クーラーのせいで喉が乾燥したから、甘ったるいものよりも普通の水が飲みたくなったのよ」
 言いながら、彼女は水道水をコップに注いで、一気に飲み乾した。僕はその様子を見ながら、空いたソファに座る。簓木の温もりが残っていた。
 シンクの中にコップを置くと、彼女はカウンター越しにこちらに言う。
「それで、何だったかしら。あぁ……そうね、お昼寝をしちゃった理由だったかしら。単純に、家の中で貴方の事を待っていたんだけど、その内に暇になっちゃってソファに寝転がっていたら、涼しさも手伝って寝ちゃったのよ」
「先ず前提条件が怪訝しいだろ。何で僕の事を待つのに、勝手に僕の家の中に入ってるんだよ」
「外で待つのは暑いからに決まってるじゃない」
「先ず連絡を取れよ!!」
「嫌だわ」
 と、簓木はわざとらしく心外そうに言うと、すっと目を細めてシニカルにサディスティックに微笑う。
「私なりの貴方への気遣いよ。もしもカノジョさんとお出掛け中だったら悪いと思って、ね」
 僕は思わず顔を顰めた。
「別に……僕と彼女はそういう関係じゃない。自然と親しくなっただけの間柄だ、変な詮索するなよ」
 ふん、と彼女は鼻で笑うと、キッチンカウンターを出る。
「嘘にしても下手糞ね。自分すら誤魔化せてないじゃない」
 言いながら、彼女はリビングのソファにまで戻ってきて、僕の隣に腰掛けた。一年前に、背中まであったのを急に肩までに短くした彼女の髪の匂いが香った。
「貴方、知ってるかしら。自分が他人の名前を呼ぶ時の癖の事」
「癖? 急に何の話さ」
「いいから。知ってるのか、知らないのか」
 言われて、少し考え込む。当たり前だが思い付かなかった。自分でも気付かずにしている事なのだろうから、当然だ。
「そんなのあるのか」
 あるわよ、と彼女は呆れている様な、苛立っている様な奇妙な顔をした。
「槻木君ね、貴方、大して親しく感じてない人の名前を呼ぶ時って、相手の事をフルネームで呼んでるのよ」
「……そうなのか?」
「そうよ。けど、親しい相手の場合でも、大抵は相手の事を苗字で呼んでる」
 でもね、と簓木はソファの肘掛けで頬杖を突きながらこっちを見た。
「彼女の事だけは名前で呼んでるわよ、貴方」
 急に顔が熱くなった。言われて初めて気付いた。思い返すと思い当たる。確かにそうだ、僕は彼女の事だけは名前で呼んでいた。明らかに他の人達とは一線を画する扱いをしている。
 赤面している事がバレない様に、慌てて僕は顔を伏せた。でも、きっと簓木にはもう気付かれているだろう。あぁ、しまった。やってしまった。これで十二分に彼女に弄られるネタを提供してしまった。綺麗に会話を誘導されていた。簓木が無防備に寝ている事にばかり気を取られていて、会話に乗せられている事に全く気が回っていなかった。
「でも、槻木君にとっては、あの子は“ただ特別に”親しい間柄なだけなのよね」
「まぁ、そう言ったけどさ……」
 僕は顔を伏せたまま答える。
 明確に彼女と交際を始める様な切っ掛けは未だに無い訳だし。いやまぁ、確かに傍から見れば所謂『彼氏彼女』だと思われても仕方が無い事は認める。でも、彼女と明示的にそういう風に付き合っているという様な関係性を築いているとは――我ながら、最早何にしても言い訳がましかった。
 漸く赤面が収まって顔を上げると、簓木がこちらをじっと見ていた。
「何……」
「構わないわよね」
「何がさ」
「貴方が、別に彼女と付き合っている訳じゃないなら、私が貴方を誘惑しても」
 ずいっと、彼女は身を乗り出してソファの上で僕に覆い被さる様にしてきた。視線が合うと、彼女は楽しそうに皮肉気な笑みを浮かべた。
「構わないわよね?」
 何と答えるべきなのかと思い、僕は沈黙する。明らかにこれは彼女の嫌がらせの一環なのだろうと解っていて、その狙いを考えた。考えるまでもなかった。認めるしかなかった。認めさせて、それで僕を困らせたいだけなのだ。ここで僕が変に答えれば、簓木は彼女に、この場での事実に基づいたある事無い事を吹き込むつもりだろう。
 だから、僕は認めた。
「……勘弁してくれよ。僕が悪かった、そうだよ、僕は彼女と付き合ってるよ。付き合ってるも同然だよ」
 言うと、彼女は何故か不快そうにきゅっと唇を結んだ。
「最初っからそう言えばいいのよ。女の子に対して煮え切らない態度を続けるなんて、男としてサイテーよ」
 何処か投げ遣りそうに言うと、簓木は僕の上から退いた。
「あぁ、そうそう。今日ここに来た本題だけど、仕事の話よ」
「またか……夏休みぐらい何もしないで過ごしたかったんだけど」
「貴方の貴重な収入源でしょ。文句言ってたら首飛ばすわよ」
「はいはい……そう言えば、君、昼食は?」
「まだよ」
「じゃあ、食べながら話を聞くよ。何か作るよ」
 言うと、彼女は少し逡巡する様に視線を泳がせた。
「ところで、貴方の手料理って彼女は食べた事あるのかしら」
「いや……無いね。他人に料理をする機会は、殆ど君にしか無いな、言われてみれば」
 ふぅん、と簓木は何処か以外そうにすると、先刻までの不機嫌な雰囲気は何処に行ったのか、気分良さそうに言った。
「じゃあ、頂くわ。私、暑いし、さっぱりつるりと食べられる麺類がいいわ」
「あー……じゃあ、ちょっと材料買ってくるよ」
 どうやら簓木は素麺を御所望なので、僕はまた家を出て、暑い中に買い物に行く事にした。





「私が食べたかったの冷麦なんだけど」
「えっ」

拍手[0回]

Comments

Comment Form