■Calendar

07 2017/08 09
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

■Comment

Name:
無料掲示板

■Twitter

■Search

紫陽花の色は定まらない #1/刑事とアルビノ-2


 オレは、とあるドーナツ屋を訪れていた。
 今日も雨で冷え込み、店を外から覘く限りでは客はそう多くない。先輩に指定された店はここで間違いが無い筈だ。しかし昨日の今日で、キメラ事件に対する対策をあっさりと出せたのは凄いけど、何でドーナツ屋かなぁ。
 しかも、オレが予告状について話しに来たというのを、事務所を訪問したという時点で先輩は既に把握していたらしいし。最初っから、こういう場――第四の事件への対策――を準備する気があったという事だろう。
 この、今一つ狙いの掴めない状況の原因を、先輩に話した事と共に、オレはぼんやりと思い返す。
 ――第四の予告状。
 それは、送り付けられた家族から警察に届け出されたもので、まだ事件は起きていない。
 その錺(かざり)家の人達によると、一週間程前に予告状は届いたらしく、悪戯だと考えていたところ、ニュースでキメラ事件の事を知り、警察に届けたらしい。
 オレ達警察は第三の犯行で、やっと同一犯による連続殺人だと明確に発表し、注意を促す様にしていた訳だけど、それでも少し世間に対する関心が低い家族だ。この一週間の間に、被害が出なくて本当によかったと思う。
 キメラは予告状を出してから、一週間か二週間程、時間を開けてから犯行に及ぶ。今のところ、馬鹿らしいが、それは本気で予告状に記した通り、被害者が身辺整理をするのを待つ期間だというのが専らの説だ。他に理由が見当たらないのと、三件の犯行全てで似た様な傾向が確認されたから、そう言われている。
 今までの事件を鑑みると、この一週間以内に必ずキメラは動く。被害が出る前に、キメラの予告を知る事が出来たのは今回が初めてだ。事件を未然に防げる可能性があり、あわよくば殺人未遂で現行犯逮捕出来るから、捜査本部も――そして捜査員のオレも――躍起になっている。
 しかし、当の錺家が警察の保護を拒んでいるから問題だ。『邪魔だから』という理由の一点張りで、家族全員がそれに同意してしまっているらしく、無理矢理に家の敷地内に入る訳にもいかないから困ったものだ。
 ――だがオレは、何れにしろキメラの犯行の手口が判らないままでは解決は無理だと思い、先輩の事務所を訪れた。
 目撃もされず、抵抗もされず、証拠も残さず、乱雑ですらある殺人を行う。手口としては前代未聞だ。これは最早、人に行える事ではなくて、怪奇の域に入っている。
 そして当の怪奇事件専門の探偵は、護衛を紹介する、と言った。
 以前の〝四肢狩人〟事件の解決にも一役買っていて、今までにも幾つかの怪奇事件の解決に関わっている人らしい。
 その人については『暁(あかつき)夜鳥』という変わった名前以外は、詳しく教えてもらえず、ドーナツ屋で会ってくれと言われた。しかも、店内で一番目立っているだろうからすぐ判る、と言われて。無責任だ。
 何と言うか、もう少し説明をしてくれてもいいんじゃないだろうか。相手の容姿とか年齢、せめて性別ぐらいは教えてほしい。しかも目立っているから云々というのは、思い切りオレの主観に頼らざるを得ない。
 オレの主観を通してでも、絶対に目立っていると認識させる自信があるのだろうか。どれだけ強烈なファーストインプレッションを与えられる人なのか……、楽しみである半面、少し不安になる。
「……もう、なる様になって下さい」
 嘆息し、一抹の不安を抱きながら店に入った。
 店内をざっと見回し、目立っていそうな人を探すと――居た、普通に。
 これ以上無いってくらいに目立っている子が居た。周りも微妙に退くか、ちら見するかしている。中には二度見している人も居た。気持ちはよく解るけど。
 その視線の先では、細身で立ち襟の長袖シャツに黒いカーゴパンツという恰好の、女子高生くらいの子が一人でドーナツを食べている。
 ただし、その席にはドーナツが山と積んであった。
 何の冗談だ。
 見た限りでは、三十個はある。しかも全部種類が違い、もしかしたらこの店の商品をコンプリートしているかも知れない。見ているだけで胃が凭れてきそうというのは初めてだ、若さって凄い。いや、若くてもあれは無理か。高校生だった時分を思い出しても、あのレベルの無茶を出来た記憶が無いし。
 しかし、その子が周囲から浮いている理由は、それだけでは無かった。
 腰の辺りまであるシルクの様に真っ白なストレートヘアに、同様に淡雪の様な白さを持つ肌。遠目から見ても、貌が整っている事が判る。自然体での所作一つ取っても、洗練されている様に見えた。
 美少女だ。冗談みたいな美少女が居る。
 その少女は、細い肩の儚げな印象とは裏腹に、異様とも言える存在感――いや、存在感ではなく、もっと別の確固不抜としたもの――言うなれば強さ、がある。
 彼方ちゃんも可愛かったけど、それとはまた違う、神秘的と言える綺麗な子が、大量のドーナツをもそもそと食べていた。シュール過ぎてちょっと退く。
 あの子で間違いは無いだろう。他に目立っている人は居ないし、ここで更にあの子より目立つ人間が現れたら、オレはこの店から脱兎の如く逃げ出す。
「えっと、君が暁夜鳥ちゃんかな?」
 話し掛けると、夜鳥ちゃんはドーナツを飲み込んでからこちらを見た。睫毛も長く白い。眼には呑まれそうな静謐がありながら、紅い色が揺れずに湛えられていた。本当に、嘘の様に綺麗な子だ。可愛いでも美しいでもなく、綺麗という言葉が一番当て嵌まる。この子を表現するのに、自分の語彙の貧困さに困ってしまう。
「はい、俺が暁夜鳥です」
 だけど一人称は『俺』だった。
「……えーと、先輩――黒木晨夜さんから話は聞いてるかな?」
「ある程度は聞いてます。日さんですよね、刑事の?」
 夜鳥ちゃんの声は思ったよりも中性的で、アルトと言うのかボーイソプラノと言うべきか、奇妙に、落ち着いた澄み方をしていた。
「そうだよ。一応手帳も見せておこうか」
 他の客に見えない様に警察手帳を見せると、夜鳥ちゃんは、おぉ、本物だ、と感心する。色々な怪奇事件に関わっていたと聞いたが、こういう反応は普通の女の子だ。
 それで、とオレは椅子に座った。
「どういう事なのかな? 夜鳥ちゃんの様な女子高生が、こんな事件に関わるのは」
 先輩には護衛を紹介すると言われたが、合点が行かない。
 キメラという連続殺人犯の護衛をするにしては、容姿こそ浮世離れしているが、夜鳥ちゃんはどう見ても普通の女子高生だ。今までに幾つかの事件の解決に関わっていたと言われても、今一つ説得力が無い。
 特別な訓練を受けているとか、何かの達人だと言われたのならまだ納得出来る。だけど、見た限り夜鳥ちゃんの体格はかなり華奢だ。とても殺人犯と相対する様な部類の人間じゃない。納得出来ない限り、とてもじゃないが、こんな女子高生を危険な目に会わす訳にはいかない。
 日さんは――夜鳥ちゃんは言った。
「黒木から、虚有についてどの程度話を聞いてます?」
「きょ……何だって?」
 虚有です、と夜鳥ちゃんは繰り返した。
「一度死んだ存在、要は霊の事です」
「霊? ……あぁ、そうだね。事件で何か居るのは感じた事があったけど、先輩に説明された事は無いね」
 今までに俺の知る由の無いモノが跋扈している感覚はあったけど、それを確固たるものとして認識した事は無い。いつも何処か半信半疑で、どう足掻こうとオレにはどう仕様も無いものが居る事を認めたくなくて――懐疑していた。
 急に遣る瀬無さが込み上げてきた。霊は居たのか、やっぱり。
 散々なまでに事件が迷宮入りしていた原因の一端が明白になって、すっきりしている部分はあるのに、唐突過ぎる事実から自分の無意味さを痛感している。公僕である刑事としての自分が、特に必要の無い領域があるのだと、再度認識する。
 だけど関係は無い、解決出来るのならば。
 それが社会の味方の正しい在り方だろう。
 重要なのは『刑事』が機能して事件を解決する事ではないのだから。そういう意味では、寧ろ不明瞭なところがはっきりとして、一歩進めたと考えるべきだ。守るべきものは組織の面子なんかじゃない、そんなものはどうでもいい。
 オレは気持ちを切り替えて夜鳥ちゃんに訊いた。
「その、虚有がどうしたのかな?」
 夜鳥ちゃんはドーナツを一口食べて、答えた。
「この事件に関わっているから俺が来たんです、俺は虚有が視えるから。黒木によると、ろかーるの交換法則に反するから、虚有が居るのは確実だとか」
 あの、人は必ず証拠を残すという法則。確かに霊の仕業なら、証拠を見つける事は出来ない。それも一件だけなら疑うけど、三件も続いている事件だ。信じるには足る。
 そもそも、他に説明をしようが無いのだ。荒唐無稽でも、端から否定せず――出来ず――オレが疑惑を抱く程度に信じる要素があって、それが今は殆ど真実に変わり掛けている。
 目を、逸らすのは愚かなだけ――あぁ、そうだ。オレは何処かで納得し切れていない。それ自体が狭量な矜持だというのに、これだから自分が情けない。
「視えるって言うのは……、夜鳥ちゃんは霊が視えるって事?」
 そうです、と夜鳥ちゃんは首肯した。
 確かに、視えない犯人を視る事が出来る人間が居れば、犯人がやって来たとしても一目瞭然だろう。だけど、それでも夜鳥ちゃんが『護衛』として呼ばれたというのには、納得し兼ねる。
「相手は三人を殺している人間だ。それを夜鳥ちゃんが相手にするって言うのか」
 わざわざ女の子を危険な目に会わせる訳にはいかない。しかし、オレのそんな心情とは裏腹に、夜鳥ちゃんは平然と言ってのけた。
「大丈夫ですよ、俺は普通の人間じゃないから」
「ふ? 普通じゃない……、って言うのは?」
 オレの言葉に少し考えてから、夜鳥ちゃんは突然言った。
「日さん、腕相撲しましょう」
「は?」
「腕相撲」
 夜鳥ちゃんはオレを無視して腕を捲り、机に腕を置く。白くて細い腕が露わになり、夜鳥ちゃんが無言で急かす。訳も解らず、取り敢えず腕を組んだ。
「日さんのタイミングで始めていいです」
 余裕綽々だ。
 ……男として、ここまで馬鹿にされていいものだろうか。仮にも刑事としてそれなりに鍛えている身だ、ここは一つ夜鳥ちゃんの思惑は判らないが、勝って然るべき場面だろう。
「それじゃあ……行くよっ」
 不意打ちで一気に力を込める。一瞬、オレって大人気無い? とか思ったけど無視した。
 その次の瞬間にはもう、腕は八十度近くまで曲り、夜鳥ちゃんの手の甲は机に付きそうになっている――が、それ以上倒れなかった。
「……え? あれ?」
 幾ら力を込めても、あと少しの隙間が埋まらない。夜鳥ちゃんの細い腕は、固定された様に動かない。オレが暫く格闘していると、夜鳥ちゃんがゆっくりと腕を動かし始めた。
 オレの腕力を無視して、何も無い様な動作であっさりと腕を倒していく。ぱたん、とオレの手の甲は机にくっ付いた。
「俺の勝ち」
「……はぁ、然様ですね」
 唖然としか出来ない。
 無理に力を込めた腕は、軽く攣った様に痺れていた。オレの大人の男の威厳って何だ。
「判りました? 俺が普通じゃないという意味」
「判ったけど……、いや、全然解らないんだけど。何かの手品かい? それでどうしようって言うんだ」
 手品じゃありませんよ、と夜鳥ちゃんは不服そうにした。
「本気でやれば、日さんの腕を複雑こっせ――再起不能に出来ますよ。もう一度やりますか?」
 可愛らしく首を傾げながら恐ろしい事を言う。しかも何故か酷い表現に言い直した。
「いや、いいです、マジで」
 どうやらオレは今、微妙に死線を潜り抜けたところだったらしい。腕が少しぞわりとした。威厳とかもうどうでもいい。
「じゃ、じゃあ、せめてもうちょっと詳しく説明してもらえるかな?」
 夜鳥ちゃんは居住まいを正してから言った。
「そうですね……黒木は、俺みたいな異能者の事を媒介者(ベクター)と呼んでます」
「異能にベクター……話の筋から言って、それも虚有っていうのと関係が?」
 あります――夜鳥ちゃんは言った。
「というか、虚有も媒介者(ベクター)です。当然、奴等も異能を持っていますから、事実上、対抗出来るのは同じベクターだけです。それと先刻言った様に虚有は一度死んで、未練から生まれる存在――霊ですから、根本的に性質が違うものになっていて、普通の人間には視えません」
「だけど夜鳥ちゃんには視える」
 ベクターと虚有は同類だけど、夜鳥ちゃんは霊じゃない。両者は怪奇現象――心霊現象と言う方が正しいかも知れない――を引き起こせる能力(ちから)を持っているけど、虚有はベクターにしか視れなくて、一度死んだという、世界から外れている存在。
 そこに何か、ベクターにのみ虚有を視る事が出来る、理由があるのだろう。
「それは何でかな?」
 訊くと、夜鳥ちゃんはオレの目を見て、
「俺も死んでるんです」
 簡単に簡潔にそう言った。
「死んでいる……って、え? どういう事だ?」
 言葉の真意を図り兼ねて混乱していると、夜鳥ちゃんは言った。
「日さんは、どうして虚有が生まれて、人間離れした能力を持てるか解りますか」
「は? そりゃあ未練があって、この世に居残るからで……」
 そこで、ふと気付いた。
 死んだからと言って、霊が超能力を持てる根拠は何処にも無い。
 寧ろ、超能力を手に入れられる方が怪訝しい。死がきっかけになって、元々の人間としての能力を超える力を持つ事になるのだろうか……いや、ならないだろう。人間(ヒト)はヒトだ。
 死ねばヒトでなくなる訳じゃない。
 ヒトだったからこそ霊になったのだから、死んでヒトでなくなる道理は無い。だけど、何かしらの能力(ちから)を持っている夜鳥ちゃんも、死んでベクターという霊と同じ側に属していると言う。
 何故、霊は人間を超えた能力を持てるのだろうか。
 夜鳥ちゃんは言った。
「ベクターというのは、死んだ事で現代のヒトの領域から外れています。そして、並行世界的に有り得る可能性の方向(ベクトル)の媒介者(ベクター)になるんです。だから俺や虚有は、生前には為し得なかった能力を持っています。……まぁ、黒木がそう言ってるだけで、俺にはよく解らないんですが」
 全部受け売りかよ。
 つまるところ、ベクターというのは死者が人間の可能性を獲得するという事なのだろうか。夜鳥ちゃんはベクターとして、何かしらの能力を持っている。それで、先刻の腕相撲でオレに圧勝した。SF染みていて信じられないけど、事実がある。しかし、やっぱり手品の様なものだろう。
 だけど、だとしたら夜鳥ちゃん自身も、言っている様に死んでいる事になる。だったら、虚有という存在にならなくては怪訝しいんじゃないだろうか。
 死んでいるのに、何故生きている?
 その矛盾の疑問を訊くと、夜鳥ちゃんは答えた。
「虚有と俺の違いは存在理由です。黒木が言うには、全てのものには理由があって、それが幾つかある事でしっかりと存在出来るらしいです。だけど虚有は理由が一つしか無い不安定な存在です」
「だからオレには視えない?」
「そうです。俺の様なベクターは、未練があるのにそれを知らないから、一度死んだのに、しっかりとした存在になっている。そして、同類で同質だから虚有を視る事が出来る。黒木は『ベクターはあちら側に居るべきものが、こちら側に居る存在だ』と言ってましたけど」
 存在の軸になっているのは未練――理由。
 そうは言われても、実際はそんなものを知っている人間は居ないんじゃないだろうか。存在する事に理由が必要だとしても、生きる事に対して確実な答えを出せている人が、どれだけ居るのか。
 虚有になった人は、その確実な答えを知っているから、再びこの世に現れた。だけど、その生きる理由を固定して。それしか為す気が無いというのは、ある意味でとても恐ろしいと思う。
 逆にベクターとして生きている人は、生前と何も変わらない。したい事があった筈なのに、それを知らないまま生きるというのは不幸なのだろうか……答えは出ないだろう。
 そもそも、理由をちゃんと知っているというのが、正しいかどうかも解らない。
 ヒトが何の為に生きているのかなんていう命題に対して、万人に共通する真理を導き出す事が出来るだろうか。生まれたからには、ヒトにも理由はあるだろう。だけどそれを、ヒトが答える事が出来るのか。
 虚有が抱く理由は、ヒトとしての理由ではなく、自己の理由だろう。それは人格の問題だ。ヒトでありながら、ヒトとして生きてはいない一つ下の段階での存在理由。それは自分という人格の檻に閉じこもっているだけに過ぎない。
 自分で導き出した答えが真理である可能性は、どれだけあるのか。いや、それどころか自分の存在に答えを出せないかも知れないものに、元々理由なんてあるのだろうか。
 媒介者(ベクター)は人間の可能性を手に入れる。その時点で、ヒトは何処に進むべきか解っていない存在じゃないだろうか。
 可能性という、ある面とても身勝手な領域を開拓出来るのは、明確な目的が定まっていないからだ。
 だとしたら、『オレ』とは一体何なんだろう。
 ここまで生きてきた自分は、一体どうやって定まっているのか。何がオレを定めているのか。自分が何処を向いているのかも知らないのに、それを胸を張ってオレだと言えるか?
 ――自分の存在が、揺らいだ気がした。
 奇妙な空虚。自分が居る筈なのに、居ない様な感覚に襲われる。それを振り払う為に口を開いた。
「要は……、キメラは幽霊で、夜鳥ちゃんは霊能力者。だからこの事件に対抗出来るって事かな?」
「そうですね。何より、俺は一度死んでいるからか――殺人という戯れた行為を絶対に赦せない」
 とても力強い、紅い眼で夜鳥ちゃんはオレを見据えた。
 死んだから、命の喪失を体験したからこそ、その価値を誰よりも解っている。それは、オレが持っていた道徳や人道からくる正義感よりも、生きる事の本質に近くて――ずっと重い。
 それに、と夜鳥ちゃんは肩の力を抜いた。
「放っておくと、先に事件が無かった事にされちゃいますし」
「無かった事?」
「虚有や、ベクターを研究している奴等が居るんです。日さん、オルガノンという会社知ってますよね?」
「あぁ、そりゃ世界的な企業だからね」
 オルガノンはあらゆる業界に進出していて、関わっていない業界の方が少ないんじゃないだろうかという、化物企業だ。
 軍事産業から社会福祉まで、異常な程手広くやっている。海外企業には珍しい老舗らしく、創設何年かは判らないという、都市伝説染みた話まである。
 利益を得る為なら何でもする守銭奴の具現だとか、麻薬の密売、テロリストの支援、既に宇宙人と貿易までしている等々、噂の枚挙に遑が無い。殆どが真贋疑わしい為、事実は何も判らないけど。
「そいつらが密かに関わって、ベクターや虚有の調査をし終わったら、形はどうあれ事件を終わらせるんです」
 確かに、虚有が絡んでいそうな事件で、不自然な形で終わったものがある。以前の〝四肢狩人〟事件も、いきなり捜査本部が解散させられて、御宮入りしてしまった。
 それがオルガノンの仕業だとすると、噂通り、オルガノンはただの企業じゃなくて、一国の警察機関に圧力を掛けられる様な力を持っているのか。
「じゃあ、今回のキメラ事件も?」
「それはまだだと思います。知り合いにオルガノンで働いている奴が居ますけど、暇そうにしてましたし」
「だったら、出来るだけ早く解決した方がいいのか」
 はい、と夜鳥ちゃんは頷いた。
「ところで、日さん。俺は一体、具体的には何をすればいいんですか? 黒木には、日さんに聞けって言われたんですけど……」
 夜鳥ちゃんは困った様に、何処か恥ずかしそうに訊いてきた。
 先輩、事件について話した癖に、何をやらせるかは伝えていなかったのか……。もう本当に、結果があれば充分だからって、妙なところで手順を端折ろうとするの、直してくれないだろうか。
「護衛だよ。予告状を出された家族のね」
「……護衛?」
 夜鳥ちゃんは、不思議そうに首を傾げた。


刑事とアルビノ……End

拍手[0回]

Trackbacks

TRACKBACK URL :

Comments

Comment Form