■Calendar

02 2017/03 04
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

■Comment

Name:
無料掲示板

■Twitter

■Search

Memory Isotope 7/同位人格:Side-Lethe & Murderer

7/同位人格:Side-Lethe & Murderer


 衝動に従って、と言われたが、これで合っているのだろうか。
 俺は人を殺す為に家から包丁を持ち出して、人気の無い路地を夜に徘徊していた。繁華街の喧噪から抜け出す為に用意された様な細道に逸れた奴を付けて、俺は気付かれない様に息を潜める。
 ばれない様に、感付かれない様に。今、目の前を歩いている人間を、ゆっくりと、どうやって殺すかを楽しみにしながら。
 うっかりしていると我に返って、吐き気を催しそうになる。だが、それ以上に掻き立てられる妄想に、身を浸らせるのが愉しくて堪らない。
 ――あぁ、どうやって打ち殺そうか。
 何処に刃を突き立ててやろうか――。
 何て充足感だ。まだ殺してすらいないのに、初めて自分の手で人を殺せる事を考えると、これ以上の快感を得られるって事だ。
 今すぐにでも襲い掛かっちまいたい。
 だが我慢が必要だ。
 確実に、絶対に仕留める為に。
 返り血を浴びられる事に心躍らせていると、そこで、殺そうとしている誰かの前から、人影が来るのに気付いた。
 邪魔な――と小さく舌打ちすると、向こう側の奴も同じ様に舌打ちをした。
「――――」
 ……あれ?
 怪訝しい。何だ、これはどういう事だ。
 あっち側から歩いてくる奴。あいつは、あいつは俺と同じ様に、殺そうとしている。
 何でだ。何でそんな事が解る。俺には、何でアイツの事が解るんだ。確信を持って、あいつが同類だと見極められる。向こうの人殺しも同じなのか、戸惑った様にその場に立ち止まった。
 思わず俺も立ち止まる。
 そして、互いに狙っていた標的がその場から居なくなるまで、そうしていた。
 大分歩いた路地裏の小路には、俺とアイツしかいない。静かで、少し冷える。街灯が所々の暗闇に穴を開けていた。
 俺が一歩を踏み出すと、向こうも踏み出した。
 二歩、三歩、四歩――街灯で互いの顔が見える場所にまで俺達は歩いていく。
 そして、互いに人殺しの顔を見た。
「……お前は誰だ」
「それは、こっちの台詞だ」
 暫く、沈黙。無駄な問いだ。解っている、こいつも人殺しだ。それだけで、充分だ。
「……俺は、己、(つちのと)己由(ゆう)だ」
 向こうの殺人鬼が名乗る。
 だから、俺も名乗りを返した。
「霧澤(きりさわ)有栖。俺は多分……」
 ――多分? いや、これは確実な事だ。
「今の俺はお前だ」
 あぁ、と奴は言う。
「――だったら、だったら俺は」
「お前を殺さねぇとならねぇな」
 互いに、凶器を取り出す。思った通り、得物は同じ物で、包丁だった。
 同じ人間が居る。しかも、俺達は人殺しだ。全く同じ殺人鬼だ。
 だからどうしても相手が邪魔になる。
「…………」
 タイミングは要らなかった。
 ほぼ同時に俺達は互いの首を狙って、刃を振るった。
 俺はそれに合わせて軌道上に空いている腕を出してそれを防ぐ。奴も同じ遣り方で防いでいた。
 互いに同じ体勢の膠着状態で固まり、次の手を考える。
 ――いや。
 違う。俺は考える必要は無い。
「――――っ!」
 俺は渾身の力を込めて、相手を蹴り飛ばす。その衝撃で奴は倒れ、俺はその隙に――右目の眼帯を外した。
「ふぅ――――」
 広くなった視界に、殺人鬼――己を収める。
 そして視る。奴を、奴の澪の流れを俺は識る。
 立ち上がった己は、俺を睨んでこっちに向かってきた。だが無駄だ。もう解っている。奴が、何を考えて俺をどう殺そうとしているのか、あいつの流れはもう識っている。
 まっすぐに腹を狙って包丁を突き出すが、解っている攻撃なんだ、怖い訳が無ぇ。
 直線の殺意を躱し、俺は反撃を返す。包丁を持っている奴の腕を切り付けると、その勢いで傷から出た返り血が道に散った。
「っぁ……!」
 痛みで怯んだ一瞬を逃さずに、俺は己の顔面を蹴り飛ばす。そして倒れ掛けた奴の肩に包丁を突き刺し、完全に倒してその柄を踏み付ける。ぐじゅ、と肉の抉れる音がして包丁が骨に当たった。
 やべぇ。
 愉しい。
 こっちが一方的に暴力を振るうのが面白くて堪らない。
「――っく」
 がんがんと、ただひたすら奴の肩を潰そうと足を下ろす。その度に痛みに歪む己の顔が、最高に気持ちいい。
 笑みが零れる。
 気が付くと大声で笑いながら俺は奴を踏み付けていた。己は何かを譫言の様な事を言っているが、耳に入らない。
 煩ぇ、話し掛けんな。今俺は手前を殺している最中なんだよ。まだまだ片腕を潰し終わってからじゃねぇと、止めを刺す気になれねぇ。俺を殺そうとした腕を使い物にならねぇぐらいに打っ潰しておかないと、満足出来ねぇ。
 奴の腕が血だらけになって、やっと俺は満足した。これ以上やってると、流石に血が無くなって勝手に死なれちまう。それは興醒めだ。
 さぁ、仕上げにするか。
 己の肩に刺した包丁を引き抜こうとしたが、踏み付け過ぎたせいでボロボロになっていた。仕方が無いので、代わりに己が持ってきた包丁を使う事にした。
 自分の凶器で殺されるなんてのも無様で中々いい。
 もう殆ど気を失い掛けている己の顔を眺め、俺はその横にしゃがみ込む。
「――じゃあな、殺人鬼。お前の代わりは俺がやってやるよ」
 俺の言葉に僅かに反応を見せた己は、笑いながら言った。
「いいね……、代わりが居るなんて……殺し冥利に尽きる」
「――はっ。はっは、違いないな」
 どっちが殺される事になってても、結果は同じだったろうから。
 じゃあな、と俺は胸に向けて包丁を振り下ろし、
『そこまでだ、この馬鹿』
 その声に、俺の腕は止められた。
『カナエに言われたから見に来てみれば、カナエの言う通りじゃないか。全く、危ないところだよ』
「……柘榴ちゃん」
『そこまでにして帰るぞ。これでもう、お前はそこの殺人馬鹿に悩まされない筈だよ。何ってたって、端からお前がそいつになれる訳が無いんだから』
「え?」
 いや、だって俺はこいつの、己の犯行の跡を視たから――
『ばーか。言われただろ、お前はその右目を扱えないから侵されてただけなんだって。大体、記憶で他人を模倣しようとしている偽物が、何で本物を壊すんだ。そんな事したら、もう模倣は出来なくなるだろ』
 それじゃあ、俺がここでやろうとしていた事は――意味が無い?
『今回の事はね、カナエはお前に自覚を与えようとしただけだよ。初めて人殺しの記憶を覗いたから、処理し切れてないだけだろうってね。これでもう、自分を見失う事も無いさ』
 くわーっ、と面倒臭そうに柘榴ちゃんは欠伸をした。
『まぁ、悪趣味な方法だけどね』
 呆然としながら、俺は包丁を取り落とした。


8/記憶同位体の有効活用:Side-Gnosis

拍手[0回]

Trackbacks

TRACKBACK URL :

Comments

Comment Form