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5.透明

5.透明


 昼休み。
 屋上。
 快晴。
 そして恋人に昼食に誘われるというリア充シチュエーションなぼく。
「真麻くん、屋上で一緒にお昼食べましょう」
 この言葉を聞いた時のぼくがどれ程嬉しかったか解る人が居るだろうか? 付き合い始めて早一ヶ月。これまでに佐渡さんにされてきた事を考えれば、『恋人』という概念に疑念を抱きつつ男女の関係性について思わず社会派な提言を世間にしたいぐらいだ。
 いや確かに思春期の男子高校生という生物の生態系からすれば、彼女の暴挙の後に来るアメの様な行為はとてもとてもクるものではあるのだけれども、それってぼく餌付けされてるだけじゃね? という思いを断ち切る事が出来ないのも確かだ。
 まぁー、うん。
 悪くはないんだよね。
 だけどやっぱり普通の男女交際らしい事をしたい事も確かで、例えばデートとかしちゃったりしてねー、一緒に勉強しちゃったりしてねー、互いの家に遊びに行ったりしちゃって、ちょっと出来上がった雰囲気に盛り上がって「今日、家に誰も居ないんだ……」とかテンプレな発言してみたりねー。リア充怖い。
 そう言う事を考えると、佐渡さんからの昼食のお誘いというのは、本当に嬉しくて今日という日を一瞬自分の誕生日よりも記念日として格上に設定しそうになったぐらいだ。
「じゃあ真麻くん」
 ところがどっこい。
「購買戦争、頑張ってきてね」
 やっぱり佐渡さんは佐渡さんだった。
「五分で戻ってきて頂戴」
 という訳でぼくは佐渡さんにお金を渡されて、購買の人集りに単身で二人分の昼食を買いに行かされるという、恋人に当然の様に中々言われる事は無いだろう命令お願いをされて、どうにか屋上まで全力疾走で戻ってきたところだった。
 そんなぼくを、お疲れ様、と佐渡さんは屋上でフェンスに寄り掛かりながら出迎える。
「有り難う真麻くん」
「いや……うん、いいよ……うん」
 息が上がってそれどころじゃないし。
「ちゃんと……買えて……何よりだよ……」
 隣に腰を下ろして何とか息を整えようとしていると、不意に佐渡さんが言う。
「凄い汗ね」
「割と全力だったから……」
 制服のブレザーの上着を脱いで、ネクタイも思い切り緩める。
「疲れたでしょう、少し横になったら?」
「いや大丈夫だよ、汗と地面とで制服汚れちゃうし」
「それなら上着を敷けば問題無いんじゃない?」
「いや結局ズボン汚れるし」
「そう……真麻くんは私の膝枕が嫌なのね」
「ちょっと待ってぇ!? マジで? マジでいいんですか佐渡さん? 膝枕してくれるんですか佐渡さん?」
「でも嫌みたいだから仕様が無いわね」
「いやいやいや! そんな事言ってないし! ってか今初めて聞いたよぼく? 膝枕してくれるって初めて聞いたよ?」
 この好機を逃すなぼく。佐渡さんのこんな気紛れはもう二度と無いかも知れない。必死に喰らい付いて何としても膝枕を成立させる……!
「私は嘘は嫌いなの、真麻くん」
「えっ」
「一度言った言葉を覆すのって最低だと思うわ」
「えっ」
「そんな正直さが好きな恋人である私に対して、前言撤回という到底不倶出来ない事を強いるのかしら貴方は?」
「えっ」
「そこまでして私に膝枕してほしい? って聞いてるのよ」
「えぇー……」
 何このワードトラップ。
 そんな聞かされてもいない前提条件の諸々を理由に、そんな蔑み様な目付きをされても……。
「どうなのかしら、真麻くん」
 佐渡さんはぼくからの返答を催促する様に、侮蔑な視線を投げ掛ける。正直、楽しんでる色を見て取れる気がするのが、自分の頭に慣れを感じて残念に思う。
 いやしかし、ならばここはぼくも言葉で返させてもらうというのはどうだ。何としても膝枕を得んが為に、今のぼくの頭は恐らく血流の流れ云々できっと回りが良くなっている筈だ(思い返すとこの発言が既に頭が悪かった)。
「さ、佐渡さんが正直さが好きっていうならさっ」
 これは逆説的に詭弁を弄すればきっと正当に聞こえるかも知れないという、安易なぼくの主張であり手段。
「正直に言います、佐渡さんに膝枕してほしいです!」
 土下座しました。
「……変態」
 くすりと微笑いながら、佐渡さんは言った。
「そこまでして膝枕してほしいの? 女子の腿に頭を置いて寝たいの? 必死過ぎて気持ち悪いわね」
 ぐうの音も出ません、はい。
 佐渡さんはぼくの下げた頭のすれすれの位置に、爪先を伸ばしてきて靴先を遊ばせる。髪の毛の先端にちらちらと揺れる空気が当たっていた。
「その必死さは何処から来るの? 旺盛な性欲かしら? それとも二次性徴の発露? 汚らしい男の欲望の証なのかしら?」
「えーと……強いて言うなら恋人らしい事をしたいってだけなんだけど……」
 少し顔を上げて答えると、佐渡さんの革靴が視界に入る。その先には、ぼくの言葉に怪訝そうな彼女の表情があった。
「それが理由?」
「いやまぁ、うん。折角佐渡さんみたいな可愛い女子と付き合えるなら、そういう事しないと勿体無いと思って……」
 自分でも何を言いたいのか解らなくなって思わず口籠もる。でも思い返すと根底にあるのは、確かにそんな感じの理由だっただろうし、卑しくて嫌らしい下心だけで行動していなかった筈だ。筈。
 うん、少なからずこれはぼくの本音である事に間違いは無いから問題は無い。
 すると、佐渡さんがぽつりと呟いた。
「……本当に、正直なのね」
「え?」
「いいわ。ほら、寝ていいわよ」
 急に棘が抜けた様に、佐渡さんは膝をぽんと叩きながら言った。
「あれ、いいの?」
「早くしなさい」
「あ、うん」
 一八〇度態度を変えた佐渡さんに戸惑いつつも、ぼくはお言葉に甘えて佐渡さんの膝を借りた。
 ごろんと寝転がって、澄ました様な佐渡さんの顔を見上げる。そして後頭部には彼女の腿の柔らかさ。
 あー、やばいこれ気分いい……佐渡さんのいい匂いがするし、身体柔らけー……。
「真麻くん」
「うん? 何?」
「にやけ面が気持ち悪いわ」
「ご、ごめんなさい……」
 ちょ、調子に乗り過ぎたか……?
 もう反射的に謝ってしまう自分は兎も角として、優しい佐渡さんに何も考えずに気をよくしてしまったかも知れない。それに落ち着いて今までの自分の行動を振り返ると、この後に佐渡さんに何を言われても割とどう仕様も無い事をぼくをやらかしてしまっているんじゃ……?
 ぼくが急速に不安を芽生えさせていると佐渡さんは言った。
「真麻くん」
「あ、はい!」
「私は、貴方に対していつまでも正直で居るわ。絶対に気持ちを隠さないわ」
「え、何突然」
 結構、何を今更って感じの事を言われている気がするんだけど。
 しかし佐渡さんは無視して言葉を続ける。
「だから、貴方もこのまま私に正直で居て」
 寝転がって見上げる彼女の顔は、いつもと同じに見えたけど、不思議と何処か哀しそうで不安げな女の子の顔だった。
 そんな彼女の言葉を聞いていると、予鈴が鳴り響く。
 そしてぼくは思い出す。
 そう言えば、お昼ご飯食べてないや。

6.手袋

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