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12.境界線

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  ……えー。
「来るな! こっちに来るな! 彼がどうなってもいいのか?!」
 よく判らないのですが。
「真麻くんがどうにかなる? 何を言っているのかしら、その前に貴方がどうにかなるわよ」
 恐らくマジ切れしている佐渡さんに、
「……くっ! 状況が解っていないのか貴方は!! ワタシは彼を人質に取っているのよ!?」
 人質にされているぼくに、
「だから言っているでしょう? 貴方は決して、してはいけない事をした、私にとって。その時点でもうアウトよ」
 自称テロリストに占拠された教室。
「脅しでも何でもなく、このナイフは本物だと言っているでしょう……狂っているのか貴方は!!」
 どうしてこうなった。

 その日、ぼくのクラスの教室はざわついていた。
 何故かと言うと、
「なぁなぁ、真麻。今日、転校生が来るらしいぜー? しかも女子! 確かな情報筋によると我が山瀬高校のツートップである才媛美女の簓木鏡花生徒会副会長と、白髪紅眼のサスペンス美少女暁夜鳥と張るらしいぞ!!」
 イオの言の通り、クラスに編入してくる女の子が居るらしい。
 っていうか高校内で確かな情報筋って何だよ。ラノベかよ。しかも校内ツートップ美少女ってアニメや漫画の世界にしか居ないモノでしょ。そんな人が居るなんてぼく初めて聞いたよ。
「あっれー? 何か興味無さ気? けっ、これだからカノジョ持ちは! くたばりやがれ!!」
「何だよその唐突な逆切れ。情緒不安定過ぎるだろ」
「あぁ? 煩ぇな、男子高校生は本来、常に性的に飢えていて憧れと不安に揺れ動く生き物なんだよ!! 三年間しか行使出来ない権利を前にオレ達はどうやったら合法的に女子高生と親しくなれるかを考える為に高校に通ってんだッ!!」
「ごめん」
「謝るなァッ!! 謝ったりするなァッ!! 止めろオレのアイデンティティを一言で吹き飛ばすな!!」
「何か最近テンションずっと高いけど疲れない? どうしたの? イメチェン? 何かのアニメに影響された?」
「煩ぇ!! オレだって必死なんだよ!!」
 うん。
 まぁ、イオが何を言っているかは後半は全く理解出来なかったから無視して。
「何だっけ、転校生が来るんだっけ?」
「おぉ、そうそれ。それそれ。転校生だ!! しかも美少女設定らしいぜ!! これはもう、イオさんとのカップリングが決定したと見て間違い無いですねぇー、ええ」
「躁病なのお前? 発言が支離滅裂だけど」
「だからオレも必死なんだよ!! ……いや、それは措いておこう。いいとして、だ。取り敢えず、普通の男子としてだな、美少女の噂が流れる女子の登場に心ときめくものがあってもいいんじゃねぇ?」
「うーん、まぁそれなりに気にはなるけど。どんな子なんだろ」
「お、いいねいいね。それっぽい会話になってきたじゃねぇか、じゃあここで一つじっくりと会話パートをだな」
「あ、先生来た。イオ、ホームルーム始まるから席に戻れよ」
「チクショオオオオオォォォ!!」
 だから何なんだ先刻から……ここ最近やたらとぼくとか佐渡さんと話す時そわそわしてるし、辺りを見回して落ち着いたり急にテンション上げたり。あんな奴だったかなぁ……あんな感じになったのって、ぼくが佐渡さんと付き合い始める様になってからだけど、訳が解らない。
 ぼくが肩を盛大に落として席に戻るイオを見ていると、担任の森川先生が口を開いた。
「あー、もう知っている奴も居る様だが、転入生が居ます。適当に仲良くしてあげて下さい。あぁー……、先に自己紹介させないとな、順番逆だったわ」
 相変わらず雑だな森川先生……。あんなのが教師で本当いいのか。
 転校生の知らせに対して、クラスの反応はまちまちだった。普通に驚く人も居れば、イオみたいに知っていて今かと待ち構える人。
 ちらっと目を遣ると、ぼくの恋人である佐渡真子は特にこれと言った反応も示さずに、つまらなそうにペン回しをしていた。
 入ってきなさい、と森川先生に呼ばれると「はい」という短い返事と同時にドアが開く。そして中に入ってきた少女の姿を見て、何人かが声を上げた。
 正直ぼくも瞠目していた。
 すらっとした身体に、長い金髪。そして青い目。金髪碧眼という、正にという形容の容姿をした女の子。見るからに外国人だった。彼女はクラスの何人かの目を男女問わずに奪いながら、ゆっくりとした足取りで教卓の横に立つ。
「んじゃ、自己紹介でも」
 と、森川先生に促されて、彼女は軽くお辞儀をして、流暢な日本語で言った。
「初めまして。イングランドのシェフィルードから来ました。ワタシの名前はテロル。テロル・フィナーレです」
「は?」
 そう声を上げたのは森川先生。
 確かに変わった響きの名前ではあるけど、そんなに驚く程のものじゃない様な……というか、先生なんだから先に名前の確認ぐらいしておけよ……。
 と思ったが、どうやら違うらしい。
「いや、お前。名前違うだろ、何だよそれ。確かアビゲイル――」
 言い掛けた瞬間。彼女(テロル? アビゲイル? 一応、テロルという事にしておこう)は、身体を素早く半身に捻って森川先生の顎に向けて腕を振り抜いた。耳慣れない鈍い音がして森川先生の顎が跳ねると、先生はそのまま黙ってその場に膝から落ちる。
 どさり。
 顔面から地面にイった、危ない倒れ方だった。
 足元で大の男を転がしながら、ふぅ、と彼女は安堵した様に胸を撫で下ろした。
「危ないな。ワタシの本名を口にするだなんて。学長から何も聞いていなかったのこの教師は? ここではワタシの名は『テロル・フィナーレ』。“恐怖の終幕”のテロル・フィナーレだと言うのに」
 全員が、暫く動かなかった。
 というよりも、動けなかったという方が正しいのかも知れない。余りにも突拍子の無い状況に、誰も対応出来ていなかったからだ。疑問を呈する様にざわつくだけで、一体今何が起こったのか解っていなかった。
 テロルはクラス全体を一瞥すると、ふん、と鼻を鳴らしてぼく達に向き直った。
「改めて名乗ります。ワタシの名はテロル。“恐怖の終幕”のテロル・フィナーレ。ここ、ヤマセ高校にはとある任務の為に来たわ。だがしかし、貴方達には一切実害があるものではない。普通に高校生活を送る目的以外の何物でもない。ただワタシの正体を探ろうとした者が居た場合はその限りではない事を肝に銘じておいて」 
 ほぼ全員が思っただろう。
『こいつヤバい』
 五分も掛からずに、数十人の人間に同じ印象を与える事が出来るのだから、ある意味で特殊工作員的な特別な訓練的な何かを受けているのかも知れないけれど、如何せん、先生を気絶させたインパクトの方が現時点では勝っていた。
 ぴくりとも動かない先生に対して、クラスの誰一人として『介抱する』という点に思考が回っていなかった。勿論ぼくも含めて。
 自己紹介を終えたテロルは教室に流れる雰囲気を無視して(単純に空気が読めないだけかも知れない)、不思議そうに「それで?」と言う。
「ワタシの席は何処かしら?」

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